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モグラを飼うおっさん

おっさんはモグラの話に余念がなかった。
「モグラを飼うことができれば儲けられる」
とよく口にしていた。

アルバイト先で知り合ってからちょくちょくおっさんの研究所に足を運ぶようになった。
おっさんは僕に何も強制しなかったし、僕はそこで座っておっさんの話を聞き、モグラを見ていた。

研究所と言ったって、借りた屋根つきガレージを改装して人が住めるようにしただけの場所だった。本当におっさんがどこに住んでいるのか僕は知らなかった。
また、モグラの研究で金がないのかおっさんは日雇いのアルバイトによく行っていた。
アルバイト先でのおっさんは若者に混じって黙々と肉体労働をこなす。休憩時間には一人離れて飯を食い、タバコを根元まで丁寧に吸う。
日に焼けた顔が労務者の悲しみを映し出しているようで、それはそれで美しいと思った。

僕がおっさんに初めて声をかけたとき、おっさんは顔をくしゃくしゃにして僕のおしゃべりに応じてくれた。
おっさんはモグラの話以外はとても普通だった。モグラの話になるとムキになったが、それは子供がザリガニについての話をする際にムキなる程度だったので、僕の許容範囲内だった。

おっさんの研究所には針金で編んだ筒が全体に張り巡らされていて、その中をモグラがヌゴヌゴと移動していた。筒は途中で大きなプランターに刺さっていて、その中にはミミズが沢山いるらしく、モグラの餌場になっていた。
モグラは体中で何かを感じていなければ死んでしまうんだそうだ。
だから、針金の筒はちょうどモグラの太さで出来ている。モグラがその中を進む際に体にちゃんと何かが触れていることを感じられるようになっていた。
「おっさんがモグラなしじゃ死んじゃうのと同じだねぇ」
その話を聞くたびにおっさんをはやし立てた。
「違う。モグラは本当に死ぬんだ。わしはモグラなしでも別に死にはしないが、モグラは本当に死ぬんだ」
おっさんはムキになってそう言うのだった。

また、おっさんの研究ゆえなのか、研究所の冷蔵庫(普通の家庭用)にはモグラの死体が三つ冷凍されていた。理由はわからないが、あるとき一匹の死体を見せてくれたし、あと二匹入っていると言っていたので三匹は入っている筈だ。おっさんは嘘は言わない人だった。

それから何ヶ月か過ぎて、ボクがおっさんの研究所に行くとおっさんはいなかった。
入り口は開いていたから中に入ってみることにした。
モグラの通路が酷くイビツになっている。
よく見ると、通路の素材である針金が出っぱっていてそこにモグラがひっかかっていた。
モグラの体表面には傷があり、そこから少し出血していた。ボクはモグラを助けようと針金通路をいじってみたが、巧妙に編んであって外れない。

諦めてボーっとしていると近所の人が覗きに来た。不審者だと思ったのだろう。
近所の人が言うにはおっさんは精神科の病院に入院したのだそうだ。何年かに一回の割合いで入院するらしい。

近所の人が出て行った後、僕は色々と考えた。
多分、おっさんはしばらく帰って来ない。モグラは?モグラはどうしたらいいんだろう?
僕が世話に来ることを随分と考えたが、出来そうになかった。僕は飼育装置からモグラを出して(三匹居た)、全部冷凍庫に入れた。
冷蔵庫からはガサゴソという音が聴こえている。僕は研究所を後にして、振り返らずに帰った。モグラもおっさんも一緒に凍ってしまえばいいと思った。

コメント

確か昨年書いてた小説だよね?
「モグラを飼うおっさん」という題名が鮮烈に頭の中に残ってた。
気になってた。
モグラのおっさんは今後どうなるんだ?続きはあるの?
結構、話に引き込まれた。気になるなぁ、おっさん・・・。

続きはないのです。一応これで終わりなのです。おっさんもモグラも凍ってしまうのですよ。

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