わたしは坊を待っていた。
坊とはつい先日まで飼育していた桜文鳥で、
放しても逃げずに家の前の電柱に賢くとまっている。
暇が出来ると坊とは謡いをやったり、雲を眺めたりと楽しく遊んでいたものだった。
その坊がここ数日姿を見せぬのだ。
舞魯(まいろ)に話してみたが、
「君の調子はコロコロと変わって、これではアクセスは望めないよ」
ととりつくしまもない。
わたしは「久しぶりに大いに遊ぼうではないか?」と風の便りに書いて送った。
返事は果たしてつれなかった。
「鳥界の上役に大変重要な任務を頂戴してとても忙しいゆえ、しばしお待ち下さいませんか?」
なんだ、坊もすっかり立派になったのだなぁと嬉しい気持ちと打ち震えるような寂しさが込み上げてきた。
綺麗なカナリヤでも、可愛らしい十姉妹でもない、ほんのりと優雅に色をつけた桜文鳥の坊。
電柱を眺めて坊が帰ってきていないかを確認するのが毎朝のわたしの行事である。
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最近、読んだ本
シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
mebae