唇に金魚

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自分のことを他人事のように話すのは良くないわ。

彼女は桜色のふっくらとした唇でそう言った。
とても優しくて言葉が全身を愛撫するような感じで深く深く沈み込むような心地良さがあった。
彼女の唇は金魚のようだった。優雅で形の良い金魚だった。
体から液体成分が抜けてしまったように僕はサラサラとした心地よさを味わっていた。

秘密の場所。
彼女は囚われの身で水槽(タンク)に沈められている。
白い肌と黒い髪が水の中で揺らめいた。
罰によって酷い残像を頭に貼り付かせた僕のようなニンゲンには、
彼女のタンクに入ることは素晴らしいことだった。
しかし、彼女はそのことをよく思ってはいないようだった。

受付のマイロに幾ばくかのお金を払うと、
料金分だけ彼女の水槽に入ることが出来る。
僕はそのために必死に働く。

ある日マイロは
「どうして君たちは一瞬の心地よさや美しさに心を全て持っていかれるんだね。
こんなものはまやかしじゃないか?」
と言った。

それらに心を全て持っていかれないようなら、生きているとは言えない。
そしてそれらの心の動きをまやかしという人種を僕は信じない。

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