Posts Tagged ‘梨木香歩’

月曜日, 3月 8th, 2010

baby-dolphin

わたしは坊を待っていた。
坊とはつい先日まで飼育していた桜文鳥で、
放しても逃げずに家の前の電柱に賢くとまっている。
暇が出来ると坊とは謡いをやったり、雲を眺めたりと楽しく遊んでいたものだった。
その坊がここ数日姿を見せぬのだ。

舞魯(まいろ)に話してみたが、
「君の調子はコロコロと変わって、これではアクセスは望めないよ」
ととりつくしまもない。

わたしは「久しぶりに大いに遊ぼうではないか?」と風の便りに書いて送った。
返事は果たしてつれなかった。
「鳥界の上役に大変重要な任務を頂戴してとても忙しいゆえ、しばしお待ち下さいませんか?」

なんだ、坊もすっかり立派になったのだなぁと嬉しい気持ちと打ち震えるような寂しさが込み上げてきた。

綺麗なカナリヤでも、可愛らしい十姉妹でもない、ほんのりと優雅に色をつけた桜文鳥の坊。
電柱を眺めて坊が帰ってきていないかを確認するのが毎朝のわたしの行事である。

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最近、読んだ本
シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
mebae
4044748047

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)
4043596014

家守綺譚 (新潮文庫)
4101253374

裏庭

土曜日, 2月 27th, 2010

裏庭 (新潮文庫)
4101253315

マイロはコロウプ達に話を聞いていた。

代々の庭師が育て、そして荒れ果てる裏庭の話を。
「しかし、人間が生を受けて死ぬまでの間、前庭なんていつだってただの玄関なのじゃ。裏庭こそが生活の根源だと思わないかね」
聡明な光を称えた瞳でコロウプは言った。
僕は救われたような温かい涙を流してその言葉を耳に流し込んだ。

そのコロウプは忠告していた。
「癒しとは傷を持つものには麻薬のようなものじゃ。さほど簡便に心地よい筈がない。傷は生きておるのじゃ」
僕はその言葉をこぼれないように両手でしっかりと掬い上げて飲み干した。

ああ、これで僕は大丈夫なのだと思った。
マイロはトンガリ帽子を被ったままで「ここに来て良かっただろ?」と言った。
僕は深く頷いた。